「感謝の気持ち」 (高尾 信太郎先生)

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    感謝の気持ち
    医者になってから、昨年で30年を迎えた。最初は消化器外科医をめざし、手術に明け暮れた日々は遠い昔。いろんな意味で、純粋でひたむき、若さの特権でもありました。目の前の患者さんを助けることに全力を尽くすことをひたすら追求した毎日でした。乳腺専門医を志した頃から、患者さんとの結びつきも長く深くなり、これまで多くのことを教えられてきました。若い頃は、根拠の無い自信に溢れ、独学で無理な手術や治療を行ったこともありました。時には感謝され更に自信を深めたこともあれば、時には厳しい現実を突きつけられ、非難を浴びたこともありました。しかし、いつも目の前には患者さんがいました。いろんな場面で、多くの患者さんの生き様に寄り添う経験をさせていただき、その一つ一つがかけがえの無い私の財産になっています。
    10年前にがんセンターに赴任してきてから、診る患者さんの数が圧倒的に多くなり、毎日、夜10時を過ぎるような外来、時には12時を過ぎても終わらず、遅い外来が全国的に有名になってしまったりしました。乳腺専門医として、診断から手術、薬物療法、再発治療、終末期治療と、乳癌患者さんのあらゆる場面に関われることが、やりがいであり、自信でもありました。
    しかし、現実はだんだん厳しくなってきました。若い先生たちの相談も受けるようになり、数えきれない数の患者さんを相手にするようになりました。更に、6年前より大学病院にも行くようになり、名前を聞いただけではすぐに患者さんを思い出せなくなりました。このように二つの基幹病院を掛け持ちするようになり、基幹病院の持つ現実問題に直面しました。基幹病院の主たる役割は、救急や重症な状態にある患者さんに対する入院、手術、検査などの『急性期医療』と『高度専門的な医療』の提供であり、『慢性期医療』や『看取りを含む終末期医療』を執り行う余裕はありません。このような問題を解決すべく、1人の主治医で完結する『病院完結型医療』から、かかりつけ医を中心とした、『地域完結型医療』へと、医療体制の大きな変革がありました。また、がん薬物療法を専門とする腫瘍内科医、終末期医療を専門とする緩和治療医の台頭で、乳癌患者さんの診療も、各段階で専門分野に任せる場面が増えてきています。このように、患者さんとの関わりが広く薄くなって行く中で、もう一度、自分の乳癌診療のあり方を見直す時期に来ているのではないかと、最近よく感じます。

    毎年、数人の患者さんから年賀状をいただきます。感謝とともに励ましの言葉が書き添えてあり、いつも年の初めから勇気づけられます。
    今年いただいた年賀状から。

    「Dear
    高尾先生に巡り合えてからの10年間。私にとって本当にとても素敵な宝物のような時間になりました。10年間、心からとても嬉しく、感謝の気持ちを込めて。またきっとどこかでお目にかかれますように。」

    いつも遅くに診ることになって、こちらはふらふら、申し訳ない気持ちで名前を呼ぶと、いつも笑顔で診察室に入ってこられる方でした。診察が終わり、遅くなったことを詫びると、『全然、大丈夫です。先生こそ大丈夫ですか?ご無理なされないように』と優しく言ってくれました。どちらが医者か患者かわからない会話をしながら、最後はいつも、『頑張って下さい。』といってさわやかに去って行かれる姿に、いつも感謝していました。昨年で術後10年を迎え、再発無く、がんセンターを卒業して行かれました。
    年賀状には、新郎の横でいつも以上の満面の笑顔で微笑む、あの患者さんが写っていました。
    お幸せに。


    「晩年になって先生に巡り合えましたことは天の恵み、笑顔は生きてゆく上の心の泉…いつもありがたく感謝いたしております。」

    85歳。広範な非浸潤がんで、乳房切除術が必要な患者さんでした。それまで全く健康に過ごされており、手術も問題なく終わるものと思っていました。術前CTをみてびっくり。そこには、巨大な胸腹部解離性大動脈瘤が不気味な姿で写っていました。すぐに、神戸大学心臓血管外科に転院。二度にわたる大手術を受けられ、無事、生還されました。そして、乳癌の根治術も無事終わり、術後は無治療で経過観察になりました。今回の治療経過を記した日記を中心に一冊の本にまとめられ、知り合いの方に送られたそうです。私も読ませて頂きましたが、本当に大変な試練に遭われ辛い思いをされたにもかかわらず、治療に関わった多くの医師や看護師、メディカルスタッフを気遣われ、全てに感謝されていたことに大変感銘を受けました。季節の変わり目に何度かお便りをいただきました。花がお好きなようで、スイレンの絵や宵待草の押し花とともに、それにまつわるいろいろな思い出話を教えて頂きました。今も、外来診察では、満面の笑顔で来られ、私を元気づけてくださいます。

    このような患者さんからの励まし、感謝の言葉が私の診療の一番の原動力であり、このような患者さんとの関わりが続く限り、まだまだ頑張っていけるような気がしています。


                   兵庫県立がんセンター乳腺外科 
                   神戸大学乳腺内分泌外科       高尾 信太郎




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